弾性解析と許容応力度に基づく許容応力度設計法では、剛性の高い部材又は接合部に応力が集中し、断面を修正すればするほどその傾向が強まり、まとまりのつかない結果が生じることはよく経験するところである。この結果は、構造物を補強したものと思われるのに、構造物の許容荷重はかえって低下すると言い換えることができる。このような不合理が発生する要因は、許容応力度設計法が構造物の崩壊荷重を対象としたものではなく、弾性解析により算定された構造各部の応力度が、材料安全率を有する許容応力度の範囲内とする条件から、構造物の許容荷重を求めているためである。実際の構造物は、材料安全率の限度を超える荷重が作用しても、構造各部の靭性(塑性変形能力)によって応力の再配分が行われるため、構造各部に生じる実際の応力が弾性解析値と全く一致しないにもかかわらず、構造物が崩壊することはない。このことは、構造各部に十分な靭性(塑性変形能力)があることを前提とし、「与えられた荷重に対して、力の釣合条件を満足し、そのとき得られた構造各部の応力が終局耐力以下であるという条件(塑性条件)を満足すれば、構造物の崩壊荷重は与えられた荷重の大きさ以上である」という塑性理論の下界定理により保証されている。
弾性解析は、たわみの計算や構造安定性の確認に必要ではあるが、構造物の崩壊を議論する場合は、弾性解析によって応力状態を正確に求めることにそれほど大きな意味はなく、構造物の崩壊を防止する上で重要なことは、構造各部に十分な塑性変形能力があり、釣合条件と塑性条件を満足していることにある。そして、構造物の真の崩壊荷重を算定するためには、全ての崩壊機構の中から最小の崩壊荷重を与える崩壊機構を見出さなければならない。
物理学者のリチャード・P・ファインマンは、つねづね、次のように言っていたらしい。
「計算とは、答えが分かってから行うものだ」
私もかくありたいと願うが、つねづね、答えが分からずに計算と実験を繰り返している。【N.Y】
[蛇足]
上記の「終局耐力」を「許容耐力」に置き換えた考え方を許容応力度設計法の一つとみなし、例えば、構造各部の材料安全率(許容耐力に対する終局耐力の比)を1.5とすると、設計荷重を1.5倍しても崩壊しないということになる。実際には構造各部の応力が全て許容応力度に達していることはなく、構造各部に靭性があることを前提とすれば、構造物の崩壊荷重は設計荷重の1.5倍より大きくなるが、真の崩壊荷重は不明である。
Comments