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CASE STUDY

Midply Wall System(ミッドプライウォールシステム)の開発

開発の背景

地球環境の保全や持続可能な社会基盤の構築という観点から、木材は「炭素を固定する」という特性を持つサステナブルな建築材料として、近年ますます注目を集めています。特に2000年代に入ってからは、北米やヨーロッパ諸国を中心に、中大規模木造建築物の設計技術の開発や、非住宅分野への木造建築の市場拡大に向けた取り組みが本格化しました。
その一例として、2007年にはCLTパネル工法による7階建て建築物(SOFIE Project:イタリア)、2009年には枠組壁工法による7階建て建築物(NEESWood Project:アメリカ)が、それぞれ日本の防災科学技術研究所・兵庫耐震工学研究センター(E-Defense)にて実大震動台実験を実施しています。また、2010年には「公共建築物等における木材の利用促進に関する法律」が施行されたことを契機に、日本国内でも中大規模木造建築への関心と検討が一気に広がりました。
こうした流れの中で注目されたのが「Midply Wall System(以下、MPW)」です。MPWは、カナダの研究機関FPInnovationsとブリティッシュコロンビア大学による共同研究で開発された、面材張りの高耐力壁です。前述のNEESWood Projectの7階建て実験建物にも採用されています。一般的な耐力壁は、枠組材の片面に面材をくぎ打ちして構成される「一面せん断方式」が主流ですが、MPWは枠組材で面材を挟み込んでくぎ打ちする「二面せん断方式」を採用しています。これにより、くぎの本数を抑えつつ効率的に高い水平耐力を確保できる点が、大きな特長となっています。

MPWは当初、カナダで開発され、実大震動台実験などを通じてその構造性能が実証されました。しかし、日本国内での活用にあたっては、いくつかの課題がありました。たとえば、MPWに使用される枠組材、面材、くぎなどの部材は、カナダの規格に基づいて設計されており、日本の枠組壁工法で用いられる材料規格とは異なっていました。そのため、日本の規格に適合した部材への対応が必要となりました。さらに、MPWを日本国内で実用化するには、それに対応した構造設計法の整備も求められました。こうした背景を踏まえ、日本における中大規模木造建築の普及促進を目指し、カナダ林産業審議会(COFI)との協働により、MPWの日本版の開発が進められることとなりました。

課題

・MPW構成材料の選定(告示第1540号への適合化に関する検討)

・面材くぎの二面せん断性能の評価

・MPW耐力壁構面の水平耐力性能の評価

・MPWたて枠の圧縮座屈耐力の評価

・普及促進に向けた構造設計マニュアルおよび技術指針の整備

検討内容【検討期間:約8年間】

1年目(2012年度)

① MPWの部材構成、構造的特長と設計上の留意点等に関する開発者へのヒアリング

② 告示第1540号,第1541号への適合化に関する検討

 ・使用材料の選定(枠組材:枠組壁工法構造用製材,面材:構造用合板又はOSB,くぎ:CN75)

 ・告示で想定しているたて枠の構成,くぎ打ちの方法と異なることに対する技術的見解の提示

③ 日本仕様の材料を用いたMPWの構造性能評価試験

 ・面内せん断耐力の評価

 ・たて枠の圧縮座屈耐力の評価

2年目(2013年度)

① MPWを用いた枠組壁工法建築物の構造計算モデル化の方法

② MPWおよびタイダウン金物を用いた枠組壁工法中高層建築物の動的挙動の把握(時刻歴応答解析)

3年目(2014年度)

① 構造設計マニュアルの作成

② 3階建て、6階建てモデルプランを対象とした構造試設計例の作成(保有水平耐力計算)

4年目(2015年度)

① MPWを用いた枠組壁工法5階建て実設計物件の構造設計対応(花畑あすか苑/個別評定取得)

② 実物件の設計を通して得られた構造課題の整理とMPW仕様改善の検討

 ・面内せん断耐力性能の不足(トリプル仕様、クワドラプル仕様の追加)

 ・たて枠の座屈耐力評価法の定式化に関する検討(NDS評価法の適合性検証)

 ・施工性の改善(面材くぎの打ち込み方向,MPWと床版、MPW継手の構成方法)

5年目(2016年度)

① MPWを用いた枠組壁工法5階建て実設計物件の構造設計対応(花畑あすか苑/個別評定取得)

② 実物件の設計を通じて得た構造課題に対する仕様改善

③ 仕様改善したMPWに対する構造実験の追加

6~7年目(2017~2018年度)

①「枠組壁工法建築物 設計の手引き」「枠組壁工法建築物 構造計算指針」(緑本)へのMPW解説追加

 ・告示逐条解説への掲載原稿案の作成,緑本編集委員会への説明対応

②在来軸組構法へのMPWの適用に関する検討

 ・木造軸組構法用MPWの仕様検討

・壁倍率認定取得対応(仕様規定ルート)

8年目(2019年度)

在来軸組構法へのMPWの適用に関する検討

 ・木造軸組工法用MPWの構造計算法に関する一般評定の取得(許容応力度計算ルート1)

図4 実施構造設計の課題を踏まえたMPWの仕様改善に関する検討

図6 軸組構法用MPWの構造設計法に関する一般評定取得

成果

・カナダで開発されたMPWをわが国の枠組壁工法建築物の高耐力壁として適用できるよう整備した。
・MPWを適用した5階建て枠組壁工法建築物の実施設計に対応することで、普及促進に貢献した。
・実施設計を通じて得た改善策を講じた仕様を経て、枠組壁工法建築物の設計指針である「設計の手引/構造計算指針」にMPWの構造計算法が掲載された。
・木造軸組構法の高耐力壁としてMPWを拡張し、壁量計算ルート対応として壁倍率5.0の大臣認定取得、許容応力度計算ルート対応として高耐力壁仕様(換算壁倍率7.0倍相当)を用いた構造設計法に関する一般評定を取得した。

参考URL

ミッドプライウォールシステム(カナダ林産業審議会HP)

2018年 枠組壁工法構造計算指針 付属資料 (日本ツーバイフォー建築協会HP)

関連論文

Midply Wall Systemの構造性能に関する検討(その1) : 合せ柱とするたて枠の座屈耐力の評価

Midply Wall Systemの構造性能に関する検討(その2) : 構面試験に基づく面材釘のせん断耐力性能の評価

Midply Wall Systemの構造性能に関する検討(その3):面材の枚数を増した多層MPW の面内せん断性能

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