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技術コラム

―建物の揺れ方を読み解く―「復元力特性」とは?

1.復元力特性とは?

復元力特性 とは、 構造物が変形したときに、その変形を元に戻そうとする力(復元力)が、変形量に応じてどのように変化するかを表す力学的性質 のことです。これは、地震時の建物の挙動を評価するうえで最も重要な概念のひとつです。

2. 復元力特性と荷重-変形曲線

構造物に外力(地震力など)が作用すると、部材は変形します。そのとき部材に生じる抵抗力(復元力)と変形量の関係(荷重-変形関係)を曲線として表したものが荷重-変形曲線です。この曲線から読み取れる剛性、耐力、靭性などの力学的性質の総称が復元力特性です。
建築構造部材の荷重-変形曲線は多くの場合、次のような領域を持ちます。

◆弾性域: 荷重と変形がほぼ比例し、除荷すると元の形状に戻る領域。
◆降伏点: 弾性域から塑性域へ移行する点。
◆塑性域: 降伏後、変形が進行する領域。除荷しても変形が残留し元の形状には戻らず、抵抗力はほぼ一定または緩やかに変化する。
◆耐力劣化域: 塑性域の終盤で、変形の増大とともに抵抗力が大きく低下していく領域。

図において、剛性はグラフの勾配(降伏点を境に大きく変化)、耐力は縦軸の値(特に降伏点の値を降伏耐力という)、靭性は耐力を大きく低下させることなく塑性域で変形し続けられる能力(粘り強さ)を指します。

3. 履歴特性と履歴吸収エネルギー

復元力特性には、地震力のような繰返し荷重に対して荷重-変形曲線がどのように変化するかという履歴特性も含まれます。一方向に単調に増加する力に対する荷重-変形曲線(骨格曲線)が同じでも、履歴特性が異なれば、繰返し荷重に対する荷重-変形曲線は異なる形状となります。

また、繰返し荷重時に描かれる荷重-変形曲線が囲む面積(履歴面積という)は、構造物が吸収したエネルギー量を表し、これを履歴吸収エネルギーといいます。地震時には、建物に入力されたエネルギーの一部をこの履歴吸収エネルギーとして消費することで、建物の揺れ(地震応答)が抑えられます。一般に、履歴面積が大きいほど履歴吸収エネルギーが大きく、地震エネルギーを効率的に吸収できます。このため、復元力特性を評価する際には、剛性や耐力だけでなく、履歴特性も重要な指標となります。

4. 代表的な復元力特性モデル

構造計算(特に時刻歴応答解析や静的増分解析)においては、実際の構造物がもつ復元力特性を折れ線などで理想化した復元力モデルを用います。以下に代表的な復元力モデルを示します。これらは構造種別や抵抗形式に応じて使い分けられます。

バイリニア型モデル           弾性域と塑性域をそれぞれ1本の直線で表す、最も基本的なモデル。
トリリニア型モデル           バイリニア型に対して折れ点を1つ増やし、降伏に至るまでの剛性低下(RC部材のひび割れ等)を段階的に表現したモデル。
スリップ型モデル      骨格曲線はバイリニア型と同じだが、履歴特性が異なるモデル。一度塑性域に達すると、繰返し時には過去に経験した最大変形に達するまでスリップ(抵抗力がほとんど上昇せずに変形だけが増大)する。履歴面積が小さく、履歴吸収エネルギーが少ない。

5. 履歴特性の違いが与える地震応答の影響

前述のバイリニア型モデルとスリップ型モデルを用いて、履歴特性の違いによる地震時応答の違いを簡単な数値シミュレーションで例示します。以下の動画の左側がバイリニア型、右側がスリップ型の復元力特性を与えた時刻歴応答解析モデルです。履歴特性の違いに着目するため、両モデルともブレースの剛性・耐力は同じとしています。屋根レベルに、重量がブレースの降伏耐力の4倍となる質量を与え、動画の左右方向に既往の観測地震動の一部を入力しました。

以下に、動画から地震動入力前と最大変形時の様子を切り出した画像を示します。地震中に生じる最大変形はスリップ型の方が大きく、本例ではバイリニア型の2倍以上に達しています。これは、スリップ型は履歴吸収エネルギーが小さく、また過去に経験した変形までは抵抗力をほとんど発揮しないため、変形が進みやすいことによります。このように、剛性・耐力が同じであっても、履歴特性の違いによって地震時の最大変形は大きく変わります。

6. まとめ

以上のように、復元力特性とは構造物の荷重-変形関係に表れる剛性、耐力、靭性、履歴特性などを含む総合的な力学的性質を指します。構造物の地震時の応答評価において不可欠な基礎概念であり、建物の耐震性を左右する重要な指標となります。
また、復元力特性は設計によって意図的にコントロールすることも可能です。例えば、鉄骨造の代表的なブレースである「ターンバックルブレース」は、圧縮力にはほとんど抵抗せず引張力のみで抵抗するため、前述のスリップ型モデルに相当する履歴特性を示します。これに対し「座屈拘束ブレース」は、ブレース材の座屈を拘束することで引張・圧縮の両方向で安定した塑性変形を可能にしたブレースで、バイリニア型モデルに近い履歴特性を示します。前述のシミュレーションと同様に、前者より後者の方が地震時の最大変形を小さく抑えることができる一方、ブレース材としてのコストは後者の方が高額となることが一般的です。
 このように、復元力特性の選択は性能とコストのバランスにも直結します。弊社では、耐力壁をはじめとする構造部材の開発設計において、対象建築物に求められる性能を見極め、それを合理的に満たす復元力特性を実現することを得意としています。

2026年10月16日
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